日本と中国の歴史の繋がりを感じられた瞬間でした。今でも食を通じてお互いの文化の共通点を発見できるものなのですね。
今回は長崎人に馴染み深い「五島うどん」を通じて知った中国浙江省永嘉岩担県にある「索麺」との深い関係についてご紹介したいと思います。
・五島うどんと温州索麺。その製造工程とは?
・どうして切って完成じゃない?中国の索麺その理由。
・五島うどんのルーツ温州索麺を購入して食べてみた。
・今日の振り返り!中国語発声
中国大陸にルーツが?五島うどんと温州索麺
国慶節の帰国時に長崎の五島へ立ち寄ろうかと、五島について調べていたのですが興味深い記事を見つけました。
それは日本三大うどん(※)の一つ「五島うどん」のルーツは中国大陸にある。という文面。
(※)三大うどんは「讃岐うどん」「稲庭うどん」「五島うどん」
元上五島町教育長・吉村政徳氏の談話が五島うどんのサイトで説明されていたのですが、國學院大學・加藤有次教授が「うどんは、中国から遣唐使が伝えた」という学説を裏付けるために平成13年11月、五島うどんを求めて中国大陸に渡った研究の成果を明かしたそうです。詳しくはサイトの動画で紹介していますが、非常に興味深い内容でした。
五島列島は遣唐使の寄港地で、その際に五島に伝わったという話。伝来については諸説あるそうですが、中国大陸説は「浙江省温州市永嘉县岩担镇」で製造されている「索面(suǒ miàn)/素面(sù miàn)」と呼ばれる麺の製法と「五島うどん」の製法が同じという点から。
「索面(suǒ miàn)」の中国語、発音してみると日本語の「そうめん」に近い音なのですが、「そうめん」の呼び名の由来なのでは?と思ってしまいます。
実際にどんな製法で作っているのか調べてみると、確かに「五島うどん」とほぼ同じ製法。「こりゃー間違いなか!」とうっかり長崎弁が出てしまったのでした。
五島うどんと温州索麺。その製造工程とは?
私自身、食べる機会が多い「五島うどん」なのですが製造工程について詳しく知らなかったので、五島と中国の両国の製造工程を調べて比較してみました。
中国索麺と五島うどんの製造工程の比較中国語
和面 (huó miàn) 小麦粉をこねる。練り上げ(※1)
小麦粉を塩と水を使ってこねます。
(※1)ここでは「hé」でなく「huó」の発音です。
开条 (kāi tiáo) 切り出し
こねて平に伸ばした生地を包丁で切っていきます。
搓大条 (cuō dà tiáo) 細め作業
切り出した生地を細く加工していきます。
醒面 (xǐng miàn) ねかせ
伸ばした後ねかせます。
搓小条 (cuō xiǎo tiáo) こなし(小均)(※2)
更に生地を細く伸ばしていきます。
(※2)中国は小麦粉。五島うどんはツバキ油を使い伸ばした生地がつかないようにします。
醒面 (xǐng miàn) ねかせ
伸ばした後ねかせます。
绕面/盘面 (rào mi àn/pán miàn) かけば(掛巻)
2本の竹の棒に伸ばした生地を8の字にかけ合わせていきます。
醒面 (xǐng miàn) ねかせ
8の字にかけ合わせた生地を更にねかせます。
拉面 (lā miàn) こびき(小引き)
2本の竹の棒を引っ張り、生地を伸ばして麺状にしていきます。
拉晒 (lā shài) はたかけ
伸ばして麺状になった状態の生地を「はた」を呼ばれる干し機に竹の棒を掛けていき、引っ張った麺がくっつかないように引き離して乾燥をしやすくします。
挂面 (guà miàn) 乾燥 (※3)
伸ばした状態で乾燥させます。
(※3)中国は乾燥途中で棒から麺を取り外し、麺を8の字に成形して竹製のすだれ状の物に置き直して再乾燥させます。
こわり(※4)
乾燥した麺を竹の棒から取り外し、食べやすい長にカットします。
(※4)中国では切らずに8の字の状態で完成です。
結束
カットしたうどんを紙の帯で結束し袋詰します。
うどんと索麺、製造工程で両国の違いとは。
どうですか?「五島うどん」の場合は「こなし」と呼ばれる部分で五島名産のツバキ油を使って製造途中の麺がつかないようにしますが、中国では小麦粉を使用。
「乾燥」部分で中国は8の字に成形し再度乾燥させて完成、「こわり」は日本独自で真っ直ぐに乾燥したうどんを、食べやすく調理しやすい長さにカットします。
一部分の製造工程が日本と中国で違う部分がありますが、基本的な製造工程は殆ど一緒。確かにツールが中国浙江省の温州にあると言っても間違いないのかも知れません。
また製造と違いますが日本で竹の棒にかかっている麺はカットされ「ふし麺」と呼ばれますが、中国でも日本と同じ「ふし麺」部分はカット。中国では「素面头(sù miàn tóu)/索面指甲(sù miàn zhǐ jia)索麺頭/索麺爪」と呼ばれているようです。
どうして切って完成じゃない?中国の索麺その理由。
基本的な製造工程はほぼ同じですが、中国でどうして乾燥した麺を日本のように食べやすい長さにカットして完成させないのか?実はこの辺は文化や習慣に関係しているのでは?と個人的に推測しています。
「索面」で調べていると別名として「长寿面(cháng shòu miàn)」と書かれている記事がありました。「长寿面」とは、中国の誕生日などの祝いの席に食べる麺の事で、細長い切れ目の無い麺を食べる習慣があります。
つまり中国の「索面」はお祝い時にもその長さを活用する必要もあり、切らずにその長さのままで完成させているのでは?という点です。
カットさせて完成させた方が保存する体積も隙間がなくなり効率的に保存できそうですが、この辺は文化や風習を優先させて工程に違いが生じたのかも知れません。
日本に「长寿面」と言う文化が無かったと仮定すると、「なんで長いままで完成なんだろう?切った方がよくない?」という発想が生まれ、日本の場合は最終工程で麺をカットし始めた可能性もあるのかもと妄想を膨らましています。
五島うどんのルーツ温州索麺を購入して食べてみた。
こんな事を調べていくと「中国の索面ってどんな味なの?」と思ってしまうのも。
ネットで購入できないか調べてみたのですが、温州の索麺を発見!しかしルーツと言われる「岩担産」ではなく「文成産」ただし二箇所の位置関係を調べてみると、数十キロ離れているご近所。
「文成(wén chéng)」の索麺の製造工程を調べたのですが「岩担(yán dān)」と同じ。つまり温州市永嘉近郊の県や鎮などでも、同じ製造工程で索麺を作っている可能性が高いようです。
早速ネットで購入したのですが、2キロで40元ほど(18年8月レート642円)で注文した翌日に届いた索麺はこんな感じ。8の字に成形された索麺が袋詰されて送られてきました。
箱には2袋が梱包、1キロ単位で袋詰された製品構成です。成分表を見ると原料は小麦粉と塩と水。添加物は含まれていません。五島うどんと違い油などは使われていないようです。
麺にズームしてみると正直、麺の太さはまちまち。この辺の麺の太さの均一感は製造先で差があるかも知れません。そして索麺というだけあって日本の「そうめん」と同じくらいの太さ。「五島うどん」より細いのが本場中国の索麺の特徴のようです。
食べ方は日本と同じ。多めのお湯で湯がいて食べ細いので2分ほど湯がいたら完成です。麺が1キロ単位で8の字になっているので目分量で一回分に取り分けて湯がくのが少々面倒ですが、お湯に入れた瞬間に小麦粉の香りが鍋いっぱいに広がりました。
今回は日本風にアゴ出汁の味噌仕立てのスープにからめて実食。
味、食感はまさしく日本の「そうめん」そのもの。麺の細さがまちまちでしたが、コシもちゃんとあって個人的にはアリ。こりゃー再販決定です。
遣唐使の時代に五島の人たちも食べた可能性がある中国の索麺。この索麺を食べた五島の人たち、そりゃー教え方を習って自分たちの生活に取り入れたに違いありません。だって美味しいんですもの。
どうして五島のうどんが細いのか、このルーツの索麺を食べて納得した瞬間でした。
ちなみに現地の温州地区では、干ししいたけや竹の子、豚肉や卵、チンゲン菜、エビ、ネギ等の好きな食材を浮かべて食します。スープは具材から出るダシを中心に料理酒や今では味の素をベースに作っているようです。
また調理法を見ていると作っているスープに乾麺をそのまま投入している画像もあり、索麺に含まれる塩分がスープの味付けに一役買っているようです。※基本的に中国のスープの味は薄めです。
調査の過程で画像や動画を見たのですがココまで来ると、実際に現地訪問をして製造過程を見学して、現地での索麺の食べ方を体験してみたいところ。
調べると上海から高鉄で4時間、その後バスで1時間から2時間の場所。上海から意外と近いので訪問してみようと計画中です。実際に訪問してわかることもあるはず。うーん行きたい!現地レポート、お待ち下さい。
今日の振り返り!中国語発声
索面 (suǒ miàn) そうめん
素面 (sù miàn) そうめん
和面 (huó miàn) 小麦粉をこねる。練り上げ
开条 (kāi tiáo) 切り出し
搓大条 (cuō dà tiáo) 細め作業
醒面 (xǐng miàn) ねかせ
搓小条 (cuō xiǎo tiáo) こなし(小均)
绕面 (rào miàn) かけば(掛巻)
盘面 (pán miàn) かけば(掛巻)
拉面 (lā miàn) こびき(小引き)
拉晒 (lā shài) はたかけ
挂面 (guà miàn) 乾燥